『Party Hard』レビュー ~眠れない苛立ちは人を鬼にする
Steamストアページ:
※ストアに年齢制限がかかっているように、暴力的な表現を含むゴアなゲームなので本記事はいちおう閲覧注意。自己責任による摂取を願いたい。
死人に口なし。
古事記にも書かれている言い回しを体現するがごとく、ニンジャのように*1ステルスしながらパーリーピーポーを皆殺しにして静寂と安寧を掴み取るゲーム。
ウン十人にも及ぶ騒音の元凶を、ナイフで1人ずつ潰していくも良し。
電子機器を爆破する、車を暴走させて轢く……などなどステージにちりばめられたギミックを駆使して、手を汚さずにまとめて消し飛ばすもよし。
たまに誤認逮捕で連行される*2輩もおるがまぁそれはよい。
過程や手段は問わない。とにかく会場から全員排除すれば勝ちだ。
ゲームの敗北条件はざっくり以下。
- 殺人現場を見られて通報&警察に逮捕される
- うっかりなにかに巻き込まれて死ぬ
- 巡回しているガードマンなどの“お邪魔キャラ”に見つかって殴り殺される
プレイヤーはこれらを避けながらコソコソと、時に大胆に連中を黙らせていく形になる。
……え?ガードマンが殴り殺してくるのはちょっとひどくはないかって?
警察に突き出すとかもうちょっと人道的な解決があったんじゃないか?
お答えしよう。これはパーティが悪いのだ。
ガードマンは高揚感に流されてしまったに違いない。嘆かわしい側面として、パーティは人の攻撃性を高める。
パーティがなければガードマンだって取り締まりこそすれ、その場で殺してしまうなんて残虐性は発揮し得なかっただろう。
一方でこれだけ辛辣なガードマンと異なり、パーティの参加者は主人公を通報することはない。
さすがに殺害の現場を目撃した場合は別として、仮面を付けた変な輩が目の前を通り過ぎようがふしぎなおどりを披露しようがお構いなしなのである。
パーティ会場にはハプニングがつきもの。
SWATが突入してきたり、裏で強盗が起きたり、ゾンビが襲撃してきたりする。
それでも人々は踊ることをやめないし、物陰で昼夜問わずつかの間の愛に浸る。
危機意識が低いのではないかって?
「そういうゲームだから」なんてことはない。
そう、パーティが悪いのだ。パーティは人々の思考能力を低下させる。
パーティがなければSWATの介入にも落ち着いて対処できるし、強盗は通報し、ホームセンターに逃げ延びてゾンビとの決戦に備えられたはずだ。
かようにパーティは悪い文明であり、人類のために滅ぼさねばならない。
我らがヒーロー、パーティハードキラーは憤慨し、邪知暴虐のパーティバカどもを除かねばならぬと決意したのだ。
これは人理を救う戦いである。決意が何度でも主人公を支え、パーティという特異点に立ち向かわせるのだ。
要するにその辺の荒唐無稽なバカ要素を楽しむゲームである。
バカ要素ばかりではない
ガワに踊らされることなかれ。骨子は大まじめだ。
ゲーム性として特筆するべきはストラテジー要素の深みと、リプレイ性の高さ。
ステージのギミックや人物の配置、行動にはいくつかのパターンがあり(一部のステージを除く)、プレイごとにランダムで決まる。
そのほかにプレイヤーは1つだけアイテムを持ち歩けるが、このアイテムも爆弾や着替え(警察を1度だけ回避できる)などいくつかの種類があり、入手も割とランダムなことが多い。
一方で特定のギミック/イベントやガードマンの配置は、ある程度固定で決められている。
この固定要素をフックにしつつ、ランダム要素を絡めながら最適解を選んでいき、ステージを攻略していく形になる。
「ギミックを動かしてどうなるか」
「アイテムを使うとどうなるか」
はあまり説明がないし、ゲームの性質上“死に覚え”していく側面も強い。
そのため何度かリトライすることになるのだが、固定要素とランダム性の按分がかなり絶妙で、リトライしていても飽きが来にくい。
仮に失敗しても
「今回はうまくいかなかったけれど、ここがうまくいった」
「このギミックを使うとあそこの対処が楽」
といった形でトライごとに学習を挟むことができる。
それらを蓄積していくうち
「このパターンだったら行けるかも?」
とポジティブに切り変えてリトライできるし、終わったら終わったで
「こっちのパターンでも攻略できるかな?」
とリプレイへのモチベーションにも繋がっていく。
あまりうまくギミックを使えなくても、最悪物陰で一人ずつ地道に殺していく手法も取れるため、クリアするだけならばわりと何とかなることが多い。
泥臭さも華麗さも両方味わえる。プレイの受け幅が広いのだ。
気が付くとパーティを台無しにすることにやみつきになっている。
シナリオとグラフィック
シナリオについてはあまり書くとバレが含まれてしまうので避けるが、シリアス路線だ。
パーティを台無しにするごとに1話ずつ挟まれていき、ステージの切り替わりとリンクすることでゲーム進行を作っている。
みょうちきりんな事態にまみれたステージが終わると真面目なシナリオが挿入され、次はそこで語られたステージに挑む……といったサイクルを取る。
この温度差で緩急が生まれ、且つ次のステージに挑む導線になっているのが小気味良い。
ドットグラフィックの質の高さはストアページを見て分かる通り。BGMと相まって若干レトロな風味にまとめられている。
そのうえで特筆するならば「隠れ潜んで全員殺す」という本作の趣旨にかなり完璧に寄りそっている。
主人公やギミックがかなり会場に“馴染んでいる”のだ。“潜んでいる”といった方が正確かもしれない。
「パーティが血に染まり、静まっていく様子を描いたアニメーション作品なのではないか?」と錯覚しかねない程に自然で、フラットだ。
無事にクリアまでこぎつけたとき、まるで自分の手で作品を作り上げたような独特の達成感すら抱きかねない。
しんどい点ももちろんある
グラフィックが凝りすぎていてわからなくなる
何もかも統制が取れ過ぎているのだ。
「隠れ潜んで殺す」というデザインを完璧に実現した結果の弊害が出ており、遊びづらさにもなってしまっている。
ギミックがどこにあるかはCtrlを使うとわかるが、逆にいえばCtrlしないとギミックだったことがわからないことすらある。近づいてキー入力の表示が出てやっと気が付く。
プレイごとにギミックの位置は変わるため、都度Ctrlで確かめながらプレイせねばならない。
新しいステージの場合はスタート時点で自分がどこにいるか毎回探すし、プレイ中もたまに『ウォーリーをさがせ!』が始まる。
ガードマンがあまりにも背景と同化していて気付かず殴り殺される事態に遭遇した時はやり場のないもやもやを抱く羽目になった。
通しでプレイする際には目薬を傍らに置くのをお勧めする。
文字が見切れる
ローカライズ都合は多分ある。筆者は日本語でプレイした。
おそらく解像度都合だがシナリオのテキストすら折り返しによっては見切れてしまう。
ギリギリ読めるが、ビットマップ調のフォントで凝った作りになっている分惜しい。
またステージ中にでる文字表示も位置によっては(だいたい上の方)見切れてしまってわからなくなることがある。
たまに情報を拾いづらくなる程度なのだが、引っかかりを感じてしまうポイントではある。
フラグがなんなのかわかりにくいものがある
キャラの行動やイベントの原因が時々わかりづらい。
なんらかのイベントが起きた場合、その要因は時間経過なのか特定のキャラを殺してしまったからなのか、なにかのギミックを動作させたからなのか。
たとえばバイクを破壊すると持ち主が怒る……といった行動変化があるのだが、結果何が起きるのかがわからない。
そもそもバタフライエフェクト的に人が死んで逮捕されていくことがある仕様上、先に述べたように画面から情報を拾いにくい場合があるため因果関係をたどるのがなかなかにしんどい時がある。
ステージギミックには車を暴走させるだの食べ物に毒を盛るだのわかりやすいものもあふれているため、そちらで相殺が図られているのはある種の救いか。
また、参加者は死体をみれば基本警察に通報するのだが、誰も通報しないこともあるし、あるプレイでは目の前で殺したのに通報されないケースまで発生した。
これはバグなのか仕様なのかいまだにわかっていない。
クリアさえすれば「とりあえずパーティをめちゃくちゃにできたからいいか」とはなるのだが、あまりにこういう引っかかりが多い場合は残尿感のようなものを禁じ得ない。
おわりに
シリアスさとバカバカしさを行き来しつつ、プレイヤーを引きずり込んでいくゲーム性とシナリオ。
一方でそれらをまとめあげるグラフィックやサウンドは全体としてフラットにさっぱりまとめられており、とっつきやすい。
ゴアなテーマのわりにするすると味わえるが、リプレイ性もしっかりとあるのが素晴らしい。
リトライを要求する造りやシステム面でのしんどさから、遊びやすいゲームかといわれると肯定はできないが、それを差し引いても人にお勧めできる作品ではあると感じている(ゴア要素が平気という前提)。
事実、筆者も知人からSteamギフトで送りつけられる形でこのゲームを知った。
続編も出ているのでそちらにも手を伸ばそうか思案中だ。
参考までにクリアまでの所要時間は6時間程度だった。
眠れない夜、ふとこのゲームを思い出したら手を伸ばしてほしい。
眠りにつける保証はないが、気が付くと朝になっているだろう。